札幌市は2025年6月、就労継続支援B型事業所の指定更新に「工賃を給付費で補填しない」などの基準を設け、満たさない事業所は原則として更新を認めないと通知しました。すでに新規指定の一時停止にも踏み込んでおり、既存事業所・開業検討者の双方に大きなインパクトを与えています。
しかし、これは札幌だけの話ではありません。厚生労働省も同時期に全国の指定権者へ運営指導の強化を求める通知を発出しており、規制強化は全国的な方針転換として進んでいます。本記事では、その背景を正しく理解したうえで、今からできる具体的な打ち手を整理していきます。
札幌市は2025年6月17日付の通知で、就労継続支援B型事業所の指定更新に関する基準を示しました。
令和9年4月以降、以下の4つの基準のいずれかを満たしていない事業所は、原則として指定更新が認められません。
根拠は令和6年4月1日施行の市条例で、施行日は令和9年4月1日です。指定更新の手続きでは、令和7年8月1日以降に更新を迎える事業者から「生産活動収支報告書」の提出も必要になりました。
さらに市は、令和8年1月1日から新規指定を一時停止しています。理由は需給バランスの是正で、令和8年3月時点の想定として、さっぽろ障がい者プラン2024が定める計画見込量252,991に対し、供給量が314,495に達すると示されています。停止期間中は定員の増加や従たる事業所の設置に係る指定変更も行われません。
既存事業所にとっては「工賃の原資」そのものが問われる基準であり、開業検討者にとっては新規参入自体が難しくなっている現実を示す事例です。
札幌市の通知に続き、厚生労働省は2025年11月28日、全国の指定権者に向けて新規指定審査の厳格化と既存事業所への運営指導強化を求めるガイドラインを発出しました(障障発1128第1号)。自立支援給付費から工賃を補填する運営を不適切な事例として明記し、生産活動収入と会計の整合性、関連法人との取引価格まで精査するよう求めています。
つまり札幌市の指定更新要件化は、国の方針を先取りする形で具体化した一事例であり、他の自治体でも同様の運営指導強化が今後広がっていくと見るのが自然です。
実際、現場では「このままでは指定更新できないのでは」と立て直しや撤退を相談する事業所が出てきています。
就労継続支援B型がここまで厳格化されている背景には、単発の出来事ではなく、いくつもの要因が積み重なった構造的な問題があります。
就労継続支援B型の事業所数は、ここ数年で急増しました。令和5年度から令和6年度にかけての事業所数の伸び率は7.63%、令和6年度第1四半期から令和7年度第1四半期にかけては8.31%です。
同期間の年間総費用額は5,242億円から6,294億円へと20.1%増加しており、これは主要サービスの中でも大きな伸び幅です。
収益面では、令和6年度の収支差率が6.2%。障害福祉サービス全体の4.6%を上回る水準です。厚生労働省の資料では、自治体へのアンケートとして「事業者側はニーズ調査をせずにどんどん参入してきており、先行して開設した後に利用者を募るという状況がみられる」という声も紹介されており、近年の事業所数の急増は必ずしもニーズを反映したものではない可能性が指摘されています。生産活動の実態が乏しいまま給付費に依存する運営への問題意識が、規制強化の根底にあります。
2024年4月施行の令和6年度報酬改定では、平均工賃月額と基本報酬を連動させる仕組みが強化されました。
工賃水準が低い区分は単価が引き下げられた一方、人員配置「6:1」の報酬体系の創設や、工賃向上計画の目標を達成した事業所を評価する「目標工賃達成加算」の新設など、工賃向上に取り組む事業所を手厚く評価する内容です。ここでメリハリの方向性が明確になりました。
本来は令和9年度に行われるはずの本改定を待たず、令和8年度に期中(臨時)改定が実施されました。2026年6月1日以降に新規指定を受ける事業所は、令和9年度報酬改定までの間、基本報酬が所定単位数の1000分の984(約1.6%減)となります。費用の急増に歯止めをかける狙いです。
あわせて、既存事業所についても基本報酬区分の基準額が一律3,000円引き上げられました。工賃水準が同じでも下位区分に移るケースがあるため、既存・新規いずれも影響を受けます。
就労継続支援A型でも同時期に評価が厳格化されました。厚生労働省の実態調査によると、令和6年3月から7月までにハローワークが解雇届により把握した障害者の解雇者数は4,884人で、このうち4,279人がA型事業所の利用者でした。さらに、令和6年8月末時点でB型事業所への移行(予定)者は2,073人にのぼります。
共同通信が2024年8月に行った全国自治体調査では、同じ3月から7月の期間に329カ所の事業所が閉鎖し、約5,000人が解雇や自主退職となったと報じられました。A型からB型への利用者・事業者双方の移行が進んでいることも、B型側の需給バランスや審査厳格化に影響しています。
2025年10月からは新たな障害福祉サービス「就労選択支援」が始まり、新規にB型を利用する場合は原則としてアセスメントを経由することが必要になりました。50歳以上の方や障害基礎年金1級を受給している方などは例外として直接利用できます。B型が「誰でも入れる場所」から「適性を踏まえて選ばれる場所」へと役割を変えつつあることも、規制強化の一環として捉えられます。
一連の規制強化により、就労継続支援B型は「淘汰される事業所」と「評価される事業所」への二極化が進むと見られます。
生産活動の実態が乏しく、利用者に「来所すること」自体を目的とした居場所型の運営で、工賃を給付費に依存している事業所はリスクが大きくなります。工賃の原資が説明できない状態が続くと、行政指導や指定更新の不承認に直結しかねません。
工賃向上に実績があり、施設外就労や在宅就労、一般就労移行など生産活動に実態を伴う実績・評価型の事業所には、むしろ追い風が吹いています。目標工賃達成加算などの評価制度は、こうした事業所を後押しする方向に設計されています。
就労継続支援B型の新規開業を検討している方にとって、規制強化は「もう遅い」ではなく「条件が変わった」と捉えるのが正確なところです。
新規指定審査では、事業計画の段階から生産活動の具体性や収益性が厳しく問われるようになりました。eスポーツや植物の水やりを1日数回行うだけの活動など、公費による就労支援の生産活動として適さない可能性がある活動は、指定段階で見送られることがあります。
また、2026年6月1日以降に新規指定を受ける事業所は基本報酬が一定期間引き下げられるため、開業タイミングによって収支シミュレーションが変わる点も踏まえておく必要があります。ただし、重度障害者を受け入れる場合や離島・中山間地域に開設する場合などは、従前の報酬単価が適用される配慮措置も設けられています。
重要なのは、開業前の段階から「工賃をどう生み出すか」という生産活動の設計を具体的に固めておくことです。
規制強化の流れを踏まえると、既存事業所が取れる打ち手は主に3つに整理できます。工賃の原資そのものを見直すか、収益源を多様化するか、外部の専門知見を借りるかです。
給付費で工賃を補填している状態が続いている場合、まず着手すべきは生産活動そのものの見直しです。作業内容の刷新や販路の拡大によって生産活動収入を底上げし、工賃をその収入から支払える構造に近づけることが、指定取消リスクを避ける基本の対策となります。
目標工賃達成加算などの活用に加え、施設外就労や在宅就労を適正に運用することで、収益源を多様化できます。ただしこれらは記録・報告の要件も厳格化されています。特に在宅支援については2026年4月に対面支援の原則が改めて示されており、制度の趣旨に沿った運用と、監査に耐えられる記録の整備がセットで必要です。
自力での立て直しが難しい場合は、福祉事業に精通したコンサルタントやフランチャイズ本部の力を借りるのも有効な選択肢です。生産活動の設計や工賃向上のノウハウ、行政指導への対策まで一気通貫でサポートを受けられる本部もあり、既存事業所の経営改善計画を外部の視点で立て直すきっかけになります。
ただし厚生労働省のガイドラインでは、「特段の知識等がなくとも事業所の運営は可能であり、高収益が実現できる」といった謳い文句で安易な開設を勧める行為に注意を促しています。本部を選ぶ際は、示された収支計画が生産活動の実態に裏づけられているかを確認しておきたいところです。
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「誰をどう支えるか」「どこで利益を生むか」という視点で整理しました。
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※参照元:ANELLA CAFE Instagram(https://www.instagram.com/dogrescue_anella/?utm_source=ig_web_button_share_sheet)(全114店舗での合計フォロワー数)2026年5月25日時点